地域適応策事例データベース

臨海工業地帯における工場排水高度処理:地域連携による工業用水再利用促進事例

Tags: 工業用水, 排水再利用, 臨海工業地帯, 高度処理技術, 地域連携

はじめに

製造業が集中する臨海工業地帯において、水資源の安定確保は事業継続における重要な課題です。特に、気候変動に伴う渇水リスクの増大、地下水利用の制限、そして排水規制の強化は、企業にとって多大な経営リスクとなり得ます。本事例では、とある臨海工業地帯に位置する複数の製造業者が連携し、工場排水の高度処理と再利用を促進することで、水資源の持続可能な利用と環境負荷低減を実現した適応策についてご紹介します。これは、地域全体の水循環を改善し、産業活動のレジリエンスを高める先進的な取り組みとして注目されています。

適用地域と産業の特性

本事例が実施された地域は、古くから重化学工業や製鉄業、近年では半導体製造業などが集積する典型的な臨海工業地帯です。

地域特性

産業特性

これらの地域・産業特性から、従来の「取水→利用→排水」という一方向の水利用モデルでは持続性に限界があり、地域全体での水循環型システムへの転換が喫緊の課題となっていました。

適応策の詳細

本事例で導入された適応策は、工場排水の高度処理と、それを周辺の工場間で再利用するシステムを組み合わせたものです。

技術的解決策:高度排水処理プラントの導入

中心となるのは、複数の企業から排出される排水を一元的に処理し、再利用可能な水質まで浄化する「広域再生水供給プラント」の導入です。このプラントでは、以下の技術が組み合わされています。

  1. 一次処理・生物処理: 排水中の浮遊物質や有機物を除去するため、凝集沈殿、活性汚泥法などの一般的な処理が行われます。
  2. 膜分離活性汚泥法(MBR: Membrane Bioreactor): 生物処理と膜分離を組み合わせることで、従来の生物処理に比べて高濃度な活性汚泥を維持でき、効率的に有機物や窒素・リンを除去します。これにより、SS(浮遊物質)やBOD(生物化学的酸素要求量)を大幅に削減し、後段の処理負荷を軽減します。
  3. 逆浸透(RO: Reverse Osmosis)膜処理: MBR処理水に含まれる溶存塩類や微量有機物、重金属イオンなどを除去するために導入されました。RO膜は、水分子のみを透過させ、不純物をほぼ完全に除去できるため、工業用水として再利用可能な高い水質を実現します。特に、冷却水や一部の洗浄水に利用できる水質まで浄化可能です。
  4. 紫外線(UV)殺菌: 処理水中の微生物を不活化し、安全性を確保します。
  5. IoTを活用した水質監視・制御システム: プラントの各工程における水質(pH、導電率、濁度、TOCなど)をリアルタイムで監視し、異常時には自動で処理条件を調整するシステムが導入されています。これにより、再生水の品質安定性が確保され、運用効率も向上しました。

制度的解決策:地域連携と供給ネットワークの構築

導入効果と評価

本適応策の導入により、以下の具体的な効果が確認されています。

定量的効果

定性的効果

課題と改善点

成功要因と課題

成功要因

  1. 先進的な膜分離技術の導入: MBRやROといった高性能膜技術を組み合わせることで、極めて高いレベルの浄化を実現し、多様な製造プロセスでの再利用を可能にしました。
  2. 強力な地域連携と自治体の支援: 複数の企業が共通の課題認識を持ち、共同でインフラ投資と運用に取り組んだ点が成功の鍵です。また、自治体がリーダーシップを発揮し、初期投資への助成や法制度面での支援を行ったことも不可欠でした。
  3. リアルタイム監視による運用最適化: IoT技術を活用した水質監視・制御システムにより、処理効率の最大化と再生水品質の安定化が図られ、運用におけるリスクが低減されました。
  4. 持続可能性への意識向上: 企業が単なるコスト削減だけでなく、気候変動適応やESG経営の観点から、水資源の持続可能な利用を強く意識したことが、本プロジェクト推進の原動力となりました。

導入・運用における課題

他の地域・産業への示唆

本事例は、特に大量の工業用水を使用する産業が集中する地域において、水資源管理のレジリエンスを高めるための有効なモデルとなります。

関連情報への参照

本事例で言及した高度水処理技術については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開する水処理に関する技術開発プロジェクトの成果報告書で詳細を確認できます。また、地域連携による水資源管理の枠組みについては、国土交通省の「水循環基本計画」や、地方自治体の水資源管理計画に関連するガイドラインや事例集が有用な情報源となります。